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税務調査において、調査官との議論に負けないために重要なことは、何ですか?
議論には進め方があります。相手との議論に負けないためには、自身が正しいと考えることを主張すると共に、相手の主張の中の矛盾点を提示することが重要です。
取引関係を説明することによって税務調査があっさり終了となれば、好都合です。しかしながら、実際には予想外のことについて指摘を受け、説明を要求されてどれほど説明しても調査官の納得が得られず、不眠の状態になってしまうほど苦悩するケースが、よく見受けられます。現実の税務調査は、そんなものなのです。調査が進むと、次第に問題点が浮き彫りにされ、調査官と当該問題点をめぐる議論になるのですが、なぜかいい負かされてしまうことになります。
いい負かされてしまうのは、どうしてでしょうか。税務のプロが議論の相手だからでも、あらゆることを知っている怖い税務職員だからでもありません。議論には、進め方があります。自分が正しいと考えることをどれほど主張しても、相手には通じません。なぜなら、調査官も自身が正しいと考えることを主張しているからだといえます。お互いに正しいと考えることを主張し合っているだけで、どこまでいっても話がかみ合うことなく、最終的には社長が根気負けしてしまい、「もうどうでもいいから早く終わりにしてほしい。払える金額であれば支払います」ということになってしまうケースが少なくないと思われます。
当局でも納税者でも、相手との議論に負けないためには、自身が正しいと考えることを主張するだけでなく、相手の主張の中の矛盾点を提示することが唯一の方法です。自身の主張が正しいと立証するだけでなく、相手の主張についてどこがどのように誤りであるのかを提示しなければ、議論は終了しません。これが、議論の容易ではないところです。自身の主張の正しさを立証するだけでなく、相手の主張の組み立ての不備や矛盾点をも立証することには、大変な困難が伴います。このことは、国税当局でも納税者・税理士でも同じです。双方が相手について、事実関係を誤認していることや、把握していない事実がほかに存在すること、そもそも主張の組み立てが筋の通ったものでないことを、指摘する必要があります。自身の主張の正しさを立証するだけでも容易ではありません。それに加えて、相手の主張に誤りがあることを、事実関係を基に法律関係の中で指摘するのは、より困難を伴うことです。このようなことは、社長には難しいといわざるを得ません。社長は本業に専念し、このように煩わしいことは信頼できる税理士を探し、その税理士に任せるといいでしょう。
税務調査において、顧問税理士はどのような立場にあるのでしょうか。法に沿って考えてみます。税理士の立場・身分・役割等が規定されているのは、税理士法です。税理士法第1条により、税理士は独立した公正な立場で納税義務の適正な実現を図ることが使命である旨が定められています。納税者の立場で納税者の便宜を図るというわけではなく、独立した公正な立場に立つとされているのです。そして、租税に関する法令に基づいて税務処理をし、納税義務の適正な実現を図ることが、結果的に納税義務者の信頼にこたえることになると定められています。納税義務の適正な実現ということが、そもそも納税義務者の信頼にこたえるものであると解することが可能です。
税理士の立場や役割に関しては、上記の通りですが、そもそも各税法においては、このような納税義務の適正な実現が、どのように規定されているのでしょうか。国税通則法・法人税法・所得税法・相続税法・消費税法のいずれについても、第1条により、納税義務の適正な履行を確保することがその趣旨として定められています。
したがって、課税当局も税理士も共に納税義務の適正な履行・実現を図るものとされているといえます。当局と税理士は、敵として対抗する関係ではなく、同じ方向を向き、同じところを目指しているということです。
そのため、税務調査で問題として浮上している事実関係を法に照らして分析、解釈すると、納税義務の適正な履行・実現を図ることができ、双方が同じ結論に到達していくのではないでしょうか。各々の立場上、どうしても争いになってしまうこともあるかもしれませんが、争うことなく事案をまとめることが最も重要であると考えられます。そして、それが税務調査の正しく上手な受け方だといえます。
とはいえ、このようにうまくいかず、税務調査で大変な思いをして議論を重ねていく方がほとんどであることも事実です。いずれにせよ、主張の組み立てには法的思考が必要であり、そのためには基礎的な学力として法律についての知識が求められることになります。
ちなみに、税務行政のあり方に関して、平成22年度の税制改正大綱によると、「納税者権利憲章(仮称)」が制定されることになっています。この納税者権利憲章は、国民主権に見合った税制を築くために、納税者の税制上の権利を明確にし、税制への信頼確保に資するものであるという位置付けです。具体的に見直す必要があることとして、課税庁からの増額更正の期間制限が3~7年であるのに対し、納税者からの減額の更正の期間制限が1年であることが挙げられています。そして、具体的に記述されているわけではないものの、無予告の税務調査についても見直しを行い、全て事前通知となるのではないかといわれています。
また、平成22年度の税制改正大綱には、国税不服審判所の改革についても記載されています。国税不服審判所の持つ、課税処分に納得することができない納税者の権利を救済するという役割を十分に果たすために、組織・人事等の見直しを検討しているとのことです。さらに、日本年金機構を廃止してその機能を国税庁に統合、歳入庁を設置する方向で検討するとのことです。
税務調査において、税務署の調査官と社長の立場は、どのような関係にあるのでしょうか?
法人税法上、調査官と社長の立場は、権限と義務の関係にあります。ただし、これは、税務調査が円滑に実施されるためであって、上下関係にあるというわけではありません。
税務調査は法律上の手続きとして実施されるものであることから、拒否が可能なものではありません。したがって、調査官から調査の通知があれば、社長は税務調査を受ける義務があります。このことを、受忍義務(じゅにん)ぎむといいます(ただし、調査日程等については、お互いに都合のいい日に調整できるのはいうまでもありません)。このように、法人税法において、調査官と社長の立場は権限と義務の関係にあるといえますが、憲法下では、人としての立場、生存権等基本的人権は完全に平等ですので、税務署の調査官、会社の代表者、平社員といった立場の相違により差別されるということはあり得ません。しかしながら、法人税法の世界では、調査官と社長の立場は、権限を有する者と義務を負う者という関係になると心にとどめておきましょう。ただし、このような関係に係る規定は上下関係を決定付けるものではないことに留意が必要です。
それでは、このような関係が規定されているのはどうしてでしょうか。調査官の質問に法的根拠が存在しないなら、違法、不当な質問ということになってしまいます。そして、納税者に回答の義務が存在しないなら、社長や担当者は調査官の質問に必ずしも答えなくても構わないということになってしまうかもしれません。すると、国の根幹の一つといえる税務行政がスムーズに機能するのが困難な事態に陥ってしまうでしょう。このようなことから、受忍義務が規定されているというわけです。
このようなことを知れば、調査を受けることになっても、過度に不安になったり、不要な拒否反応を起こしたりすることもなくなるのではないでしょうか。税務調査は、法の規定するところに沿って実施されるものであり、調査官に対して事実関係を確実に説明するものです。このことを分かることが、税務調査を上手に正しく受けるための第一段階だといえます。
会社の代表者としては、取引の事実関係についての説明を、関係書類を基に淡々と行っていけばいいという覚悟も、社長であるあなたに芽生えてきたのではないでしょうか。